
海の風が運んだ、予防医療への想い
山口大学医学部を卒業した沼田院長は、「何でもできるドクターになりたい」という夢を抱き、救急医療の道へ進みました。当時、全国の大学病院の中で唯一、救急部所属のドクターがいた大阪大学医学部附属病院の特殊救急部(現・高度救命救急センター)で1年間学び、その後、脳外科医として患者様の命と向き合う日々が始まりました。
しかし、そこで目の当たりにしたのは、厳しい現実でした。
脳出血や脳梗塞で運ばれてくる患者様を一生懸命治療しても、元には戻せない。大きな後遺症を残してしまう方が数多くいました。沼田院長は、昼夜を問わず必死に手術のスキルを磨き、知識を増やしても、「この病気を発症してしまった以上、取り返しがつかない」という壁に何度もぶつかったのです。
そんな中で、一つの問いが心に浮かびました。
「5年、10年と訓練を重ねれば、後遺症を残す人を救えるのだろうか?」
答えは「いいえ」でした。
「それなら、こういう取り返しのつかない病気にさせないことも、ドクターとしてやらなければならないことなのではないか」
その想いが、沼田院長を「病気を治す医療」から「病気にさせない医療」へと向かわせました。当時はまだ「予防医療」という言葉さえ一般的ではなかった約30年前のことです。
中国の伝統医学に「未病」という考え方があることを知り、中医学を学び始めました。西洋医学とは全く異なる発想に触れるうちに、「大学で習った西洋医学がすべて正しいわけではない。中医学やインドのアーユルヴェーダなど、他の医学の中にも素晴らしい考え方がある。それを取り入れることで、患者様をもっと笑顔にできるのではないか」という確信に至りました。
その後、明治生命(現・明治安田生命)広島支社で診察業務に携わり、35歳で故郷の周南に戻りました。そして2005年、築港町にある実家を使って海風診療所を開業しました。
「予防医療で飯が食えるとは思っていなかった」
と沼田院長は振り返ります。家賃もかからない実家で、小さく始めた診療所。ある日、窓を開けると潮の香りを含んだ海風がふわりと入ってきました。
「海風がいいか、潮風がいいか?」
「海風のほうがしっくりくるな」
こうして、「海風診療所」という名前が生まれました。
トレーフル・プリュスの誕生
その後、沼田院長が目指したのは、単なる診療所ではなく、「人が本来持っている自己治癒力を最大限に発揮させる場所」でした。自己治癒力は、自律神経バランス、血流、栄養の3つから成り立つと考え、それぞれを整える場所を作りました。
心と自律神経(ニコニコ) → 心理カウンセリングルーム
運動(テクテク) → 3階にフィットネスジム
栄養(カムカム) → 1階にカフェ
そして診療所
この4つを統合し、「トレーフル・プリュス(四つ葉のクローバー)」というコンセプトが完成しました。ニコニコ、テクテク、カムカムに診療所をプラスする。海風診療所は、予防医療を実践する統合医療施設として、この地に根を張ったのです。
安保徹教授との出会い
沼田院長の原動力となったのは、新潟大学の安保徹教授との出会いでした。安保教授は、こう語っていました。
「人間は病気になったと言って、まるで壊れたかのように修理が必要だと考えるけれど、決してそうじゃない。人類は700万年も生き延びてきた。そんなに簡単に壊れていたら、とっくに絶滅している。私たちドクターの病気に対する捉え方が間違っているんだ。壊れているのではなく、何かに適応しようと一生懸命している。それを理解しないと、根本治療は難しい」
熱が出たら熱を下げる、血圧が高いから血圧を下げる、痛いから鎮痛剤を飲む――それでは根本的な解決にはならない。この考え方に共鳴した沼田院長は、安保教授と情報交換を重ね、「これこそが真っ当な医療だ」という確信を深めていきました。
保険診療には、国が定めたガイドラインがあります。「こんな症状の人が来たら、こういう薬を出せば保険を通してあげますよ」という道筋です。沼田院長も最初は「国が決めているのだから、これが正しいのだろう」と信じていました。しかし、人間の体や健康の本質を学ぶうちに、「これはちょっと違うぞ」と思うようになったのです。
周南市にあるこの小さな診療所は、いま、全国にも珍しい「統合医療の実践施設」として、地域の健康を支え続けています。
海風診療所の社会貢献
海風診療所は、周南市に根差し、「病気を治す医療」から「病気にならない医療」へとシフトすることで、地域住民の健康寿命の向上に貢献しています。
一般的な病院は、病気になった人を治療する場所です。しかし海風診療所は、その一歩手前、つまり「病気になる前に防ぐ」ことを重視しています。予防医療を通じて、自律神経のバランスを整え、血流を改善し、栄養をしっかり摂ることで、患者様が本来持っている自己治癒力を引き出すサポートをしています。
また、カフェ、診療所、フィットネスジムを一体化させることで、「食・医療・運動」の3つの側面から総合的に健康をサポートする体制を構築しました。この取り組みは、全国的にも珍しいモデルであり、「予防価値が社会保障を上回る」ことを証明し、日本全体に予防医療を広げていくという壮大なビジョンの第一歩となっています。
さらに、地域の健康関連の仕事をしたくても場所がなくて実現できない方々への支援として、当院のスペース提供も行っています。カフェスペース、フィットネススペース、施術スペースの時間貸しを通じて、健康づくりに取り組む個人事業主や専門家が活動できる場を提供し、地域全体の健康意識向上に貢献しています。
現在、広島や博多にも同様のモデルを展開しようと動いており、周南市で培ったノウハウを全国にコピーしていく計画が進んでいます。海風診療所は、周南市という地域にとどまらず、日本全体の医療のあり方を変えていく挑戦をしているのです。
医療事務という仕事
医療事務は、診療所の「顔」として患者様を迎え、安心感を与える重要なポジションです。一般的な病院では、1時間に何十人もの患者様を次々と対応しなければならず、一人ひとりとじっくり話す時間はほとんどありません。
しかし、海風診療所は完全予約制で、1日に多くて30人程度。患者様一人ひとりとゆっくり向き合い、話を聞き、不安を解消し、医師や看護師に橋渡しをすることができます。
医療事務の仕事は、受付や会計だけではありません。患者様との会話の中で、診察室では言えなかったことを聞き取り、それを医師にフィードバックすることで、診療の質を高める役割も担っています。また、予防医療を実践する診療所だからこそ、患者様に予防の大切さを伝えたり、健康への関心を深めるきっかけを作ったりすることも、大切な役割です。
そして、働く中で自然と予防医療の知識が身につき、自分自身や家族の健康管理にも活かせるという点も、この仕事の大きな魅力です。
海風診療所のデータ(2025年12月現在)
従業員数
会社全体:7名
海風診療所:1名(正社員)2名(パート)
年齢層の割合

男女比
